2012年5月16日水曜日

頭部外傷後遺症での高次脳機能障害について


平成16年3月

頭部外傷による高次脳機能障害について

       北海道高次脳機能障害連絡調整委員会委員長  眞野 行生

       (北海道大学大学院医学研究科機能再生学講座リハビリテーション医学分野教授)

1 はじめに

 最近社会の注目を集めている「頭部外傷後遺症による高次脳機能障害」についてまとめてみた。この病気の成り立ちを分かっていただければと思う。

2 頭部外傷とは

 頭部に外傷をうけると、頭蓋骨の内外に各種の病変を生じるが、これらは脳外病変と脳直接病変とに大別される。前者には、頭蓋骨外における頭皮裂傷や頭皮下血腫、頭蓋骨における頭蓋骨骨折、頭蓋骨内における急性硬膜外血腫や硬膜下血腫などがあり、後者には、脳挫傷、脳内出血、びまん性軸索損傷などがある。頭部外傷の中で、脳に損傷が存在する場合を特に脳外傷(TBI)と呼ぶ。

3 発生頻度

 全国の不慮の事故による死者数を原因別に比較すると、1999年では、交通事故が13,111人、転倒・転落が6,318人、溺水が5,943人、窒息が7,919人、火災が1,463人、などとなる。交通事故死は10代後半から20代に多く、転倒・転落死は高齢になる程増加し、溺死は1~14歳に多い。また、窒息死は0歳に多くて、高齢になるとまた増加する。このように、年齢により不慮の事故死の原因は異なる。このうち死亡を免れたものの後遺症としての高次脳機能障害が問題となるのは、交通事故、転倒・転落などである。


どのようにショックペンを構築するか

 死亡を免れた後遺症がどのくらいあるかについて、わが国にはこれまで充分な調査データがない。その理由は、頭部外傷においては、四肢の運動・感覚麻痺が回復しても、高次の脳機能障害だけが残る場合があり、これらは外見が正常であるので、"見えざる障害"として見過ごされてきたからである。しかし、一般的には、年間約1万人の交通事故死者のうち、頭部外傷によるものは約55%と推定されている。また、年間118万人(2001年)の交通事故による受傷者のうち、頭部外傷の割合は12%といわれている。

 英国の脳外傷当事者組織の報告では、頭部外傷者は、人口10万人あたり、軽度なもの(受傷時15分以内の意識障害)が250~300人、中等度(6時間未満)が15~20人、重度(6時間以上)が10~15人いる。すなわち、軽度頭部外傷者は15万人、中等度頭部外傷者は1万人いることになる。特に、重度頭部外傷者は11,600人と推計されていて、このうち5年後に職場復帰しているのは、わずか15%である。また、常にケアが必要となる重度頭部外傷者は、2000年までに135,000人になると推測されている。

 米国の脳外傷当事者組織の報告では、TBIにより毎年5万人以上が死亡している。1年間に100万人がTBIになる。毎年8万人がTBI後の長期の障害をもつ。現在530万人の人がTBIで障害を伴って生活している。統計の取り方が各国で異なるので、単純に比較できないが、かなりの数の頭部外傷後遺症者が生活している。

4 頭部外傷のメカニズム

 頭部に大きな外力がかかると、脳は頭蓋骨と衝突する。この外力直下の脳に生じたのが直撃損傷(coup injury)、外力と反対側の脳の損傷を反衡損傷(contrecoup injury)と呼び、側頭葉や前頭葉に脳挫傷がおこる。また、脳には固定されている部分と比較的動きやすい部位があり、急激な外力により加速度やせん断力がおこる。比較的固定されているのが脳幹上部や脳梁であり、この部分ではせん断力が神経細胞の軸索の断裂をおこす。これをびまん性軸索損傷(diffuse axonal injury)という。軸索周囲の血管の損傷をもひきおこし、散在性の微小出血を伴う。画像検査の発達により、従来把握がむつかしかったびまん性軸索損傷の存在を推定することが可能となってきた。

5 脳外傷の症状と合併症


口臭についてのおかしい引用

 最も多い交通事故後の脳外傷では、受傷時に臓器損傷や骨折を伴うことが多い。また上記のさまざまな頭部外傷により、意識障害、片麻痺、半盲、運動失調、失明、てんかん、水頭症、不随意運動、髄液鼻(耳)漏などがおこる。重度脳外傷後数ヶ月以内で、意識障害、運動麻痺などは徐々に改善していく例が多い。しかし、脳損傷により生じた高次脳機能障害は長期にわたり持続する。

6 頭部外傷で認められる高次脳機能障害

 頭部外傷後遺症による高次脳機能障害がまだ注目されていなかった時代、疾患に伴う高次脳機能障害は、脳卒中に伴うものが中心であった。その内容は失語、失行、失認であった。これらは言語中枢である大脳のブローカ中枢、ウェルニッケ中枢、島、頭頂葉の障害などで認められるものであった。通常の脳卒中とは異なるさらに広い脳領域が損傷を受ける頭部外傷で認められる高次脳機能障害の症状は、注意力障害、遂行機能障害、認識・判断の障害、学習・記憶障害、コミュニケーション障害、情緒不安定、障害への無関心、性格変化、対人技能拙劣などである。それらの内容は多彩であり、従来の失語、失行、失認のような比較的系統立った神経心理学的検査が確立されていない。現病歴、臨床症状と後で述べる� ��くつかの神経心理検査の組み合わせにより、これらの高次脳機能障害が把握されている。

7 検査

 画像検査として、必要に応じて、頭部単純X線検査、脳CT検査、MRI検査、PET(ポジトロンCT)検査等がされる。

 神経生理学的検査として、P300、聴性脳幹反応、経頭蓋磁気刺激検査、脳波検査などがされる。

 神経心理学的検査として、WAIS-R(知能検査)、リバーミード行動記憶検査(RBMT)、三宅式仮名ひろい検査、trail making test(注意機能検査)、WCST(ウィスコンシンカード分類テスト)、PCRS(障害の自己認識の評価表)などがされている。その他脳外傷の高次脳機能障害には種々のテストが試みられている。

8 経過と機能予後


 頭部外傷では急性期に死亡したり植物状態となる群以外に、運動障害の予後は比較的よく、日常生活活動(ADL)は比較的保たれているが、認知障害や情緒障害のため社会適応の障害が著明である群がある。特に、交通事故後の頭部外傷では20歳前後の若年男性が多く、就学や就職の問題は大きく、復学、復職への対応が要求される。これには障害の部位と程度とともに教育・職業などの生活歴、受傷前の性格、および社会・環境因子が影響する。

9 高次脳機能障害への認知リハビリテーション

 頭部外傷後の高次脳機能障害において、慢性期では環境整備など自立・支援システムの構築が重要である。一方、早期から認知訓練などが必要とされるが、高次脳機能障害では問題が多岐にわたり、まだ十分確立されてなく、厚生労働省の高次脳機能障害支援モデル事業において、訓練プログラムや支援プログラムが検討されている。

 頭部外傷急性期においては、急性期医療の担当者は残存する可能性のある高次脳機能障害を認識し、家族などに障害の予後について話をして、医学的対応および家族の対応や環境整備が遅れないようにする。

 障害早期におけるリハビリテーション訓練では、注意力低下、記憶障害、判断力の低下、コミュニケーション障害、情緒障害などが対象となる。早期の訓練は訓練効果が高いことが証明されている。

 訓練には、個別訓練と小グループ訓練がある。グループ訓練は、他人の行為を見て自己を反省するのに役立ち、また訓練に行く意欲が高まり、対人関係の構築に役立つ。


具体的には、障害そのものへの直接訓練を行い、障害の程度を減少させることと、障害を他の脳機能や代用機器で代償させる訓練がある。集中力や判断力の低下には、視覚・触覚などの刺激や声かけにより覚醒レベルを上げる全般的認知訓練、記憶障害に対しては、学習・訓練での記憶回復訓練、手帳や予定表などでの知能の低下を代償させる訓練がされる。その他、一連の動作を繰り返し運動学習させる適応訓練がある。薬物では覚醒レベルを上げる薬物や抗痴呆薬などの試みの報告もある。直接訓練で効果が上がらない場合には、運動療法により活動性を向上させて心理的効果を生みだす方法や、集団的活動を通じての自己の障害認識と情緒・社会性を改善させる方法がある。また、作業療法による持久力と創造力の� ��成の試みも重要である。

情緒不安定には、認知機能障害について本人や家族等の十分の理解と自己管理能力を高める心理療法や、各種の行動療法、グループ療法などが行われている。

活動性を高める訓練として、また身体障害への訓練として、歩行訓練、筋力増強訓練、座位・立体訓練、平衡機能訓練、利手交換訓練、間接可動域訓練、持久力訓練、巧緻性訓練、協調性訓練、感覚フィードバック訓練、日常生活訓練、日常生活関連動作訓練、ストレッチング訓練、リラクゼーション訓練などがある。残存する運動障害へは自助具、スプリント、装具の作成もされる。

投与量は少量であるが、薬物療法は、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、行動と情緒の障害などに対してリハビリテーションと併用して使われている。

 職業に就く前の職業前訓練は重要である。職業についても、コミュニケーション障害、記憶障害、集中力障害のため、仕事の継続がむつかしいことがある。職業前訓練はその助けになる。また、職場の人に高次脳機能障害について理解してもらうのも大切である。

10 まとめ

 高次脳機能障害は、今までは"見えざる障害"といわれていた。すなわち、運動能力はあり、日常生活動作などは比較的保たれており、また会話では異常を認めないこともあるにもかかわらず、社会生活をする時に適応障害がみられるのである。一見すると異常がないため、家族の理解、学校や職場での理解は充分ではない。


 障害発症早期に認知訓練などのリハビリテーション訓練を積極的に行うことで、効果が上がることは示されている。また、慢性期には社会的行動障害がみられる高次脳機能障害者の自立支援のため、地域での支援システムを確立していくことが大切であり、今後、この障害が社会的にも認識されて、その環境が整備されていくことが重要である。

 



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